大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和33年(ネ)1661号 判決

被控訴人は右差押にかゝる原料そば一〇〇俵中八五俵は自己の所有である旨主張する。そして、原審証人野村彦三郎の証言により成立を認め得る甲第二、三号証に原審証人檜山徹意、岡野五郎、当審証人福田新一、原審及び当審証人野村彦三郎の各証言を併せ考えれば、被控訴人は相当以前から訴外松屋製粉精麦株式会社(昭和三十三年八月一日に松屋製粉株式会社と商号を変更した。)との間に原料そば等の取引を行つてきており、その取引方法はまず売主である被控訴人から売買目的物を買主の前記訴外会社に搬入し、しかるのちに具体的に時価にしたがつて代金額を決定する習慣であつたが、かようにしていつたん搬入された品物につき、価格その他の点で商談が不調になり、被控訴人において現物を引き取つたというようなことは、従来一回もなく、本件において被控訴人が自己の所有であると主張する原料そば八五俵も、従来の例にしたがい、昭和三十二年十一月十六日に被控訴人から前記訴外会社に、電話で「原料そば八五俵があることから引き取つてくれ」との申入をし、訴外会社はこれを応諾、同月十八日に訴外会社から差し向けた車によつてこれを同会社に引き取つたものである事実が明らかであるが、右事実は、これに後段認定の各事情、及び当審証人金田全弘の証言により認め得る、右取引当時原料そばの価格は、その品質に応じてだいたい安定していたという点(これに反する当審証人福田新一、野村彦三郎の各証言部分は信用しがたい。)を斟酌すれば、訴外会社は前記のように売買目的物を引き取ることによつてその引渡を受けたものであり、売買契約は被控訴人の電話による申込を訴外会社が承話したときに成立し、その目的物たる原料そばの所有権も右売買契約成立と同時に、或いは遅くも前認定の引渡の時に、被控訴人から前記訴外会社に移転したと認めるのが相当である。

原審及び当審証人福田新一及び野村彦三郎は前認定の引渡のみによつては本件原料そばの所有権は訴外会社に移転しない、と供述するが、次に認定する状況に照して、さような事実は認めがたい。

(一) 原審証人檜山徹意、大熊保男、高橋竹三郎、原審及び当審証人志村真一の各証言を綜合するときは、本件仮差押執行当時、右原料そば八五俵は訴外会社工場の原料処理機械の投入口前にいわゆる併積と称する方法によつて積み重ねられ、機械に投入するばかりになつており、その状態にあることにおいては、訴外会社の所有であることについて争のない他の一五俵との間に何らの差異がなかつたことが認められる。原審証人檜山徹意、太田昭男、当審証人福田新一は、本件係争の八五俵は、他の一五俵と区別して積んであつた、と証言するが、仮にこれを区別することができたとしても、その取扱方法について特に他の原料と異なる配慮をした形跡の認められないこと、前認定のとおりであつて、本件原料そばを単に他のものと区別して積んであつたとの点で、それがなお被控訴人の所有に属するものと認めなくてはならないものではない。

(二) また、原審証人檜山徹意、太田昭男、大熊保男、高橋竹三郎、岡野五郎、原審及び当審証人福田新一、志村真一の各証言によれば、右仮差押の時に、訴外会社の工場には、日本通運株式会社からの預かり物である化学肥料が存在し、当初それも執行の対象となつたが、訴外会社からそのことの申出があつたため、右執行に立ち会つた控訴会社の代理人等において事実を調査したうえ、これを仮差押の目的物から除いたことが明らかであり、本件原料そばについても、もし当時訴外会社側から、それが第三者の所有に属する旨の異議の申出があつたならば、少なくともその申出が真実であるかどうかを調査する等、何らかの措置がとられたであろうと推察されるにかゝわらず、全然そのような措置のとられたことを認むべき証拠がない。(なお右執行につき作成された執行調書にも、債務者側からそのような異議の申出のあつた事実について何らの記載のないこと、のちに認定するとおりである。)

(三) さらに、成立に争のない乙第一号証の一、二、第二号証、第四号証によれば、前記訴外会社は本件仮差押の後である昭和三十二年十一月二十五日に、右仮差押にかゝる物件が日時の経過により品質の低下及び価値の消耗を来すことを理由に、換価命令の申立をして、その命令を得、また、同月二十七日附書面をもつて控訴人に対し本件仮差押に因り生じた損害は、いつさい控訴人において負担すべき旨通告しているが、右換価命令の申請においても、本件原料そば八五俵を他の一五俵と一括して、単に原料蕎麦俵入壱〇〇袋と記載し、かつ前記通告書にも右仮差押の執行を受けた物件中に第三者が存在する事実について何ら言及するところのなかつた事実が明らかである。

(四) もつとも、原審証人檜山徹意、太田昭男、岡野五郎、当審証人松永謙三、原審及び当審証人福田新一の各証言によれば、本件仮差押執行当時、前記訴外会社は、たまたま同会社に来合せていた弁護士松永謙三に頼んで、執行吏に本件八五俵は被控訴人からの預り物であるから、執行から除外してもらいたい旨申し出でゝもらい、また社員の檜山徹意や太田昭男からも同趣旨のことを執行吏に言つた、というのであるが、成立に争のない甲第一号証の執行調書にも債務者から何らそのような異議の申出のあつた事実の記載がなく、また原審証人高橋竹三郎は、当時本件仮差押の執行をした執行吏であるが、さような申出を受けた記憶がない、と述べていることに照し、また前認定の(二)(三)の点をも併せ考えれば、当時仮差押債務者の側から、それほど強い意味での本件執行物件が被控訴人の所有である旨の主張があつたものとも認められない。

以上認定の各事実を綜合考察するのに、被控訴人と訴外会社との本件原料そばの売買においては、仮に代金の具体的な額の協定が後日にもちこされたというような事実であつたとしても本件売買物件の所有権が前記引渡によつて訴外会社に移転している事実を否定するには足りないものといわなくてはならない。

(内田 多田 入山)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!